さきがけ社労士事務所労務ニュース2023年11月号
「年収の壁」への当面の対応・支援強化パッケージの詳細が発表されました
厚生労働省は、労働者が社会保険料の負担による手取り収入の減少を避けるために就業調整をする、いわゆる「年収の壁」問題への当面の対策として、支援強化パッケージの詳細を発表しました。パッケージは、10月から順次実施されます。
◆106万円の壁への対応
・キャリアアップ助成金のコースの新設
短時間労働者を新たに被保険者とする際に、労働者の収入を増加させる取組みを行った事業主は、一定期間助成(労働者1人当たり最大50万円)を受けることができます。
助成対象の取組みには、賃上げや所定労働時間の延長のほか、保険料負担に伴う手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含まれます。
・社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
事業主は、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給できます。また、労使双方の保険料負担を軽減する観点から、社会保険適用促進手当については、労働者負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しません。
◆130万円の壁への対応
・事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
直近の年間収入が、被扶養者の認定の要件である130万円を超える見込みとなった場合、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等に加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、直ちに被扶養者認定を取り消されることはなく、総合的に将来収入の見込み額から判断し、迅速な認定を受けることができます。
◆配偶者手当への対応
・企業の配偶者手当の見直し促進
令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で、中小企業においても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表します。また、各地域で開催されるセミナーで説明、中小企業団体等を通じての周知活動を行います。
【いわゆる「年収の壁」への当面の対応について(令和5年9月27日 全世代型社会保障構築本部決定)】
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001150697.pdf
建設業の 時間外労働の傾向
建設業については、適用が猶予されていた時間外労働の上限規制が、来年4月から開始されます。
◆時間外労働の傾向に業種の差
建設業の時間外労働については、帝国データバンクの「建設業の時間外労働に関する動向調査」(2023年8月時点)によると、次のように建設業全体の時間外労働時間は前年を下回っているものの、以下のように業種により増加している実態もみられました。
「建設業」の時間外労働時間DI(※) 48.8
…「はつり・解体工事業」 54.4
…「内装工事業」 52.4
…「建築工事業(木造建築工事業を除く)」 51.8
…「鉄骨工事業」 51.6
※ 時間外労働時間DIは、前年同月と比べて時間外労働時間が「非常に増加した」~「非常に減少した」までの7段階で質問し、算出した値。DIは0~100の値をとり、50超が増加、50未満は減少を表している。
◆業種に応じた対策を
「建設業」としては48.8(年平均でも48程度)で減少となっており、中には土木工事業(造園工事業を除く)で44.8といった業種もありますが、上に挙げた業種はこの1年を通して見たときも、50を超えることが多いようです。
一口に建設業といっても業種により特徴があります。また、この調査結果を見ると、季節的な繁閑のタイミングにも業種の差があるようです。
来年4月1日まで残された時間は多くありません。それぞれの業種の特性を踏まえ、時間外労働対策や時差出勤、テレワーク、時間年休といった取組みを早急に具体化していく必要があります。
一方、人材確保のためには、社内コミュニケーションを促進するなどの職場環境の改善も必要です。さまざまな課題がありますが、一つひとつ取り組んでいきましょう。
【帝国データバンク「建設業の時間外労働に関する動向調査(2023年8月)」】
https://www.tdb-di.com/2023/09/sp20230926.pdf
11月は「過労死等防止啓発月間」です
◆過重労働解消へ向けた取組みとして
厚生労働省は、「過労死等防止対策推進法」に基づき毎年11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、過労死等をなくすためのシンポジウムやキャンペーンなどを行っています。
過労死等の件数は近年高止まりの状況にあるとされ、令和6年4月1日から時間外労働の上限規制が、建設の事業、自動車運転の業務、医業に従事する医師等にも適用されることもあり、引き続き、長時間労働の削減等の過重労働解消に向けた機運の醸成を行うことが求められています。
◆長時間労働が行われていると考えられる事業場等への重点監督
月間中は、長時間労働の是正や賃金不払残業などの解消に向けた重点的な監督指導などが行われ、その対象は以下の事業場等とされています。
① 長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場や各種情報から時間外・休日労働時間数が1カ月当たり80時間を超えていると考えられる事業場等
② 労働基準監督署およびハローワークに寄せられた相談等から、離職率が極端に高いなど若者の「使い捨て」が疑われる企業等
重点的に確認する事項としては、時間外・休日労働が36協定の範囲内であるか、賃金不払残業が行われていないか、不適切な労働時間管理はないか、長時間労働者に対する医師による面接指導等、健康確保措置の有無等としています。
◆過重労働防止と労働者の健康
政府の令和5年版「過労死等防止対策白書」の概要によれば、就業者への調査で、理想の睡眠時間を6時間以上とした人が9割を占めた一方、実際に6時間以上確保できた人は全体の半数であり、産業医の視点から、過労の症状における睡眠がとれなくなることの危険性が指摘されています。
労働時間が長くなるほど睡眠時間は短くなる傾向にあります。企業としては、今後もこのような労働者の健康問題を踏まえ、過重労働防止の施策を考えていく必要があります。
【厚生労働省「11月は「過労死等防止啓発月間」です」】
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_35661.html
0コメント