さきがけ社労士事務所労務ニュース2023年10月号

入職と離職の状況と転職入職者が前職を辞めた理由

◆年間で常用労働者の15%が離職

人材不足のため採用に苦慮する企業も多いところですが、せっかく人を採っても、辞めていく人が減らなければ困難な状況が変わりません。

厚生労働省が公表した「令和4年雇用動向調査結果」によれば、令和4年1年間の離職者(事業所を退職したり、解雇された者)の数は約765万人となっています。また、年初の常用労働者数に対する割合である離職率は15.0%となっています。

◆転職入職者が前職を辞めた理由

また、同調査によれば、令和4年1年間の転職入職者が前職を辞めた理由については、男女ともに「その他の個人的理由」(男性19.6%、女性25.0%)、「その他の理由(出向等を含む)」(男性14.7%、女性8.6%)を除くと、「定年・契約期間の満了」(男性15.2%、女性10.9%)が最も多く、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」(男性9.1%、女性10.8%)、「職場の人間関係が好ましくなかった」(男性8.3%、女性10.4%)が続いています。

◆企業で可能な取組みを検討

上記調査でも「個人的理由」とありますが、辞める本当の理由を会社側に明確に伝える例は少ないのではないでしょうか。

エン・ジャパン株式会社が実施した「就業前後のギャップ」についてのアンケート調査によれば、約8割が、入社前後で「ギャップを感じた経験がある」と回答しており(トップ3は「仕事内容」「職場の雰囲気」「仕事量」)、55%がギャップにより仕事を辞めたことがあるそうです。その中でも「職場の雰囲気」は離職理由のトップとなっており、上記厚生労働省の調査の「職場の人間関係」による理由と重なるところがあります。

今後はそれぞれの企業で何が離職理由となっているのかを考え、企業として可能な取組みについても検討していく必要があるでしょう。

「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」についての議論が取りまとめられました

◆生成AIの登場によってデジタル人材の育成やスキルにも影響が……

経済産業省は8月、同省の「デジタル時代の人材政策に関する検討会」において、「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」を公表しました。検討会では、生成AIを適切かつ積極的に利用する人材・スキルの在り方について議論され、現時点でのとるべき対応として以下の3つが挙げられています。

⑴ 生成AIが社会にもたらすインパクト

・生成AIはホワイトカラーの業務を中心に、生産性や付加価値の向上等に寄与し、大きなビジネス機会を引き出す可能性

・企業視点では、生成AIの利用によるDX推進の後押しを期待、そのためには経営者のコミットメント、社内体制整備、社内教育のほか、顧客価値の差別化を図るデザインスキル等が必要

⑵ 生成AIがデジタル人材育成やスキルに及ぼす影響

・人材育成と技術変化のスピードのミスマッチに留意し、その時々で環境変化をいとわず主体的に学び続けること、そのための企業内での環境整備等が必要

・生成AIを適切に使う指示(プロンプト)の習熟等とともに、従来のスキル(戦略的思考、批判的考察力等)も引き続き重要

・自動化が進み「作業」が大幅に削減され、専門人材を含む人の役割がより創造性の高いものに変わり、人間ならではのクリエイティブなスキル(起業家精神等)やビジネス・デザインスキル等が重要

・生成AIの利用により業務が効率化されることで、社会人が業務を通じて経験を蓄積する機会の減少を認識する必要

⑶ 生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキル(リテラシーレベル)の考え方

・マインド・スタンス(変化をいとわず学び続ける)やデジタルリテラシー(倫理、知識の体系的理解等)

・言語を使って対話する以上は必要となる、指示の習熟、言語化の能力、対話力(日本語力含む)等

・経験を通じて培われる、「問いを立てる力」「仮説を立てる力・検証する力」等

◆生成AIの利用について学べる講座も

政策での対応として、生成AIの登場や進化を踏まえた「デジタルスキル標準(DSS)」の改訂版を公表しました。また、ポータルサイト「マナビDX」(https://manabi-dx.ipa.go.jp/)において、生成AIの利用方法を学べる講座の追加掲載などを実施しています。

 検討会では、生成AIおよびその利用技術は絶え間なく進展しているため、人材・スキルに与える影響について、今後も議論を続けていくとしています。

【経済産業省「「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」 を取りまとめました」】

https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230807001/20230807001.html

必要性の高まるナレッジマネジメント

◆必要性が高まる背景

ナレッジマネジメントとは、社員個人が持つ知識やノウハウ・経験を、企業全体で共有化し、作業効率の改善や創発的な仕事につなげる経営管理手法です。

属人化のデメリットは広く言われており、コロナ禍によってそれが顕著に表れた企業も多いでしょう。気軽なコミュニケーションの機会や情報交換の場がなくなってしまったことにより、社員の持つ有用なノウハウや暗黙知の伝承といったことが行われず、企業の力をボディーブローのように奪っています。また、働き方の多様化や人材の流動性が高まっており、企業の知識・経験・ノウハウの喪失機会も増加しています。

そうしたことから、ナレッジマネジメントの重要性が増してきています。ナレッジマネジメントのツールもいろいろありますが、社内wiki(データベース)や社内FAQのような比較的取り組みやすそうなものから始めるのも一法でしょう。

◆導入のポイント

ナレッジマネジメントを導入する際のポイントとして、よく挙げられるのは次のことです。

・ナレッジマネジメントについての全社員の理解を得る

・ナレッジの定義、運用ルールを定める

・蓄積されたナレッジから重要なものを見分ける

・スモールスタートで始める

・ナレッジを提供したことを評価する仕組みを作る

ただ、これら以前に重要なのは、仕事内容や業務の流れ・手順などがドキュメント化されていることです。ナレッジをデータとして扱う(他人が見て使える形にする)以上は、これは必要なことです。業務マニュアルも作れていないようでは、ナレッジマネジメントも成功しないと言ってもよいかもしれません。

また、社員がその重要性を認識して参加してくれなければうまく機能しませんから、コミュニケーションの改善が重要です。現時点で、自部門の利益だけを優先する風潮が強い、社内の風通しが悪いといった企業では、まずはそれらの改善から着手する必要があるでしょう。

企業の持つ力の底上げにつながるナレッジマネジメントに、取り組んでみてはいかがでしょうか?

さきがけ社会保険労務士事務所

南予、宇和島の社会保険労務士です。