さきがけ社労士事務所労務ニュース2024年8月号
個人データの漏えい事案が大幅増加個人情報保護をめぐる動向等
◆個人データ漏えい事案の増加
企業による個人情報漏えい事故はしばしばニュースでも取り上げられるところです。個人情報保護委員会は令和5年度の年次報告(個人情報保護法168条の規定に基づき、委員会の所掌事務の処理状況について毎年国会に報告するもの)を行っており、それによれば、令和5年度においては、個人情報取扱事業者等の個人データの漏えい等事案について12,120 件(前年度7,685 件)の報告処理を行ったとしています。
◆漏えいした情報の種類
同報告書によれば、委員会に対し直接報告された事案について、漏えい等した情報の種類としては「顧客情報」が83.5%と最も多くなっています。その形態別に見ると、紙媒体のみが漏えい等したもの(82.0%)が、電子媒体のみが漏えい等したもの(12.2%)より多くなっています。
また、個人情報保護法律施行規則7条で定める報告義務の類型による分類において、最も多くを占めたのは「要配慮個人情報を含む個人データの漏えい等」(89.7%)、次いで「不正アクセス等、不正の目的をもって行われたおそれのある個人データの漏えい等」(8.1%)となっています。
◆漏えい等事案の発生原因の多くがヒューマンエラー
報告書では、上記のような傾向となった要因として、漏えい等事案の発生原因の多くが誤交付、誤送付、誤廃棄および紛失といったいわゆるヒューマンエラーであったことにも触れられています。
個人情報の取扱いに関しては厳しく法規制されていくなか、最近では不正アクセス等による漏えい事案も増加しているところです。漏えい事故が発生した場合の影響の大きさを考えると、企業としては、ハード面、ソフト面あらゆる角度からの対策が必要になってくるでしょう。
個人情報保護をめぐる動向等
近年における急速なIT化・デジタル化は、PCシステムやクラウドを用いた情報の一元管理・利活用を可能にし、社会全体に大きな変革をもたらしました。一方で、このような状況は、個人情報をめぐる様々な事案を引き起こし、国内外で問題となっています。こうした昨今の状況や、個人情報保護法改正の動向について知っておくことが重要です。
◆個人情報をめぐる事案の発生
個人情報をめぐる事案は日々発生しており、報道等で目にする機会も多いかと思われます。個人情報保護委員会は、令和5年度年次報告において、漏えい等事案に関する報告の処理件数(法令上報告が義務付けられているもの)が、12,120件(令和4年度:7,685件)であったと公表しています。
一般的に、個人情報をめぐる事案はおもに、ミス・故意等によるものと、サイバー攻撃等によるものとに大別されます。前者については、メールの誤送信や個人情報の誤配布、クラウドの設定ミス、情報端末の紛失、顧客情報の不正利用などが挙げられます。後者は、不正アクセス等によるもので、最近はとくに「ランサムウェア」による被害が話題になっています。
◆ランサムウェア被害の深刻化
ランサムウェアとは、不正アクセスによりPC上のデータ等に感染させて暗号化し、その暗号化したデータの復元等と引き換えに対価を要求する不正ソフトウェアです。直近では、大手出版社が被害にあった事案などが話題となりました。一方、大手企業に限らず、地方の中小企業等も標的となった事案もあるなど、誰もがその脅威の対象となり得ます。攻撃手法は日々進化しており、予測が難しい状況ではありますが、セキュリティソフトの導入や適切なアップデートの実施、重要データのバックアップ、社内におけるセキュリティ意識の醸成や事案の共有などを行うことが有用です。
◆個人情報保護法の改正
個人情報をめぐる法制度の改正も知っておきたい事項です。個人情報保護法は平成15年に成立し、平成17年4月に施行され、その後改正を重ねてきました。平成27年の法改正後、「いわゆる3年ごと見直し規定」に基づき改正を進め、同規定に基づく初の改正となった令和2年改正では、「漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれがある場合」に、「個人情報保護委員会への報告と本人への通知」が事業者に義務付けられることとなりました。
次の改正に向け、同委員会は6月27日、検討の中間整理を公表しました。前述の令和2年改正における報告義務化が事業者にとって負担となっている課題等について検討するとしています。
【個人情報保護委員会「「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」の公表及び同整理に対する意見募集(令和6年6月27日)」】
https://www.ppc.go.jp/news/press/2024/240627_02/
【同「令和5年度個人情報保護委員会年次報告」】
https://www.ppc.go.jp/aboutus/report/
公的年金 令和6年財政検証の結果が公表されました
財政検証は「年金の健康診断」ともいわれ、5年に一度、今後100年間の年金財政がもつかをチェックするものです。
◆給付水準の調整終了年度と最終的な所得代替率の見通し
会社員の夫と専業主婦世帯のいわゆる「モデル年金」は、今年度は月額22万6,000円で、現役世代の男性の平均手取り収入37万円に対する割合(所得代替率)は、61.2%です。なお、所得代替率は、法律で50%を下回らないことが約束されています。
今の年金制度は、将来に備えて、給付水準を物価や賃金の上昇率よりも低く調整する「マクロ経済スライド」が行われていますが、4つの経済前提ケースで、調整終了年度と所得代替率は以下のとおりとなりました。
(1) 高成長実現ケース(経済成長率1.6%、賃金上昇率2.0%)→2039年度に調整終了。所得代替率56.9%。
(2) 成長型経済移行・継続ケース(経済成長率1.1%、賃金上昇率1.5%)→終了年度2037年度。所得代替率57.6%
(3) 過去30年投影ケース(経済成長率▲0.1%、賃金上昇率0.5%)→終了年度2057年度。所得代替率50.4%
(4) 1人当たりゼロ成長ケース(経済成長率▲0.7%、賃金上昇率0.1%)→2059年度に国民年金の積立金がなくなって 所得代替率が50.1%となり、その後、37%から33%程度まで下がる
私たちにとって近年の実感に近いケースは(3)ですが、その場合の所得代替率は50.4%と、政府目標をぎりぎり上回る結果となりました。
◆オプション試算
そのほか、次のようなオプション試算も行われています。(1)被用者保険の更なる適用拡大を行った場合、(2)基礎年金の拠出期間延長・給付増額を行った場合、(3)マクロ経済スライドの調整期間の一致を行った場合、(4)65歳以上の在職老齢年金の仕組みを撤廃した場合、(5)標準報酬月額の上限の見直しを行った場合、の5つのケースについて、それぞれ4つの経済前提の下で試算が行われました。これらが来年の年金制度改正案に盛り込まれる可能性があります。なお、厚生労働省は、(2)の基礎年金の拠出期間延長・給付増額の導入は見送るとしています。
【厚生労働省「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html
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