さきがけ社労士事務所労務ニュース2024年7月号
中小企業の賃上げ率3.62%
日本商工会議所から、2024年4月時点の中小企業の賃上げ状況に関する調査が発表されました。ポイントは次のとおりです。
◆2024年度の賃上げ
・2024年度に「賃上げを実施予定」とする企業は74.3%と7割を超え、1月調査から13.0ポイント増。うち「防衛的な賃上げ」は59.1%と依然6割近く。
・従業員数20人以下の企業では、「賃上げを実施予定」は63.3%。うち「防衛的な賃上げ」は64.1%。規模の小さな事業所では賃上げの動きがやや鈍く、厳しい状況。
・「賃上げを実施予定」とする企業は、卸売業、製造業で8割超え。 最も低い医療・介護・看護業で5割強(52.5%)と全業種で半数以上が賃上げ。
・情報通信業、宿泊・飲食業、金融・保険・不動産業で「前向きな賃上げ」が5割超に達する一方、運輸業では「防衛的な賃上げ」が7割超(72.2%)と業種により差。
◆正社員の賃上げ
・正社員の賃上げは、【全体】賃上げ額(月給)9,662円、賃上げ率3.62%(加重平均)。【20人以下】賃上げ額(月給)8,801円、賃上げ率3.34%(加重平均)。
・業種別では、その他サービス業、小売業で4%台と高く、運輸業、医療・介護・看護業は2%台にとどまる。
◆パート・アルバイト等の賃上げ
・パート・アルバイト等の賃上げは、【全体】賃上げ額(時給)37.6円、賃上げ率3.43%(加重平均)。【20人以下】賃上げ額(時給)43.3円、賃上げ率3.88%(加重平均)。
・業種別では、医療・介護・看護業、運輸業で4%台後半と高い賃上げ率。
正社員の賃上げ率3.62%は高い数字であり、日本商工会議所は中小企業に賃上げの動きが広がっていると分析していますが、報道では大企業との差はなお大きいとの声もあります。
【日本商工会議所「中小企業の賃金改定に関する調査」の集計結果について】
https://www.jcci.or.jp/news/research/2024/0605110001.html
カスハラの深刻化に対する対応と実態調査結果
◆カスハラの深刻化に対する業界・行政の対応
顧客による理不尽・悪質なクレームを指すカスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」)という言葉は、ここ数年でよく聞かれるようになりました。
最近はカスハラを深刻な問題ととらえ、接客業を中心に、制度の見直しや法令の改正等の動きもみられます。例えば運送業では、SNS上での中傷のリスクのあったバスやタクシー運転手の氏名表示が、2023年5月に廃止されました。旅館業界では同年12月に施行された改正旅館業法で、不当な要求等を行う者に対し宿泊を拒否できるようになりました。さらに、東京都ではカスハラ防止条例を制定する方向を示しています。また、自民党はカスハラからの従業員保護策を企業に義務付ける法整備等の提言を行うなど、社会全体におけるカスハラ対応の勢いは増しています。
企業としても、カスハラの予防・対処や従業員の保護は重要な課題となっています。厚労省は2022年2月、カスハラの対応基準等を示した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表しています。また、JR東日本などをはじめとして、企業がカスハラ対応指針を策定・公表する事例も続いています。2022年9月22日に心理的負荷による精神障害の労災認定基準が改正され、カスハラが新たな対象となったことも重要事項です。
◆UAゼンセンのアンケート結果から
そのようななか、UAゼンセンはサービス業に従事しているUAゼンセン所属組合員に対するカスハラ対策についてのアンケート結果を公表しました。これによると、カスハラ被害自体は前回調査時から減少している(「あなたは直近2年以内で迷惑行為被害にあったことがありますか」という質問に対し46.8%が「あった」と回答。2020年時調査の56.7%から減少)ものの、回答者の半数近くがパワハラ被害の経験があることからも、依然として深刻な状況にあることがうかがえます。
迷惑行為をしていた顧客のうち、50歳代以上が75.7%と大きな割合を占めているということです。また、カスハラには「時間拘束型」、「暴力型」、「威嚇・脅迫型」、「SNS/インターネット上での誹謗中傷型」、「セクシュアルハラスメント型」といった型があり、業種・業態によっても特徴や傾向、対応が異なる(例えば、介護・福祉等を含む業種グループでは対応者は女性の割合が高く、被害回数が多くて被害期間も最も長い特徴をもち、他のグループに比べより毅然とした態度や危機退避が求められる、など)とのことです。
社会的な認知・対応が進んできたとはいえ、カスハラはさまざまな業種において深刻な被害をもたらし、生産性にも影響を与えています。UAゼンセンは上記の調査を踏まえ、総合的な施策の推進を目的とした協議会の設置や、事業者に任せきりにするのではなく、社会的な合意形成に向けた周知活動・消費者教育の強化等が必要としています。
事業主として、社員の働きやすさ・安全の確保に努めることは重要です。とくに人手不足の社会において、そうした施策を進めることは離職防止にも役立ちます。
とくに顧客対応業務の多い企業においては、一歩進んだ対策を検討してみてはいかがでしょうか。
「令和5年 労働災害発生状況」~転倒、高齢者等の災害が増加
◆死亡者数は過去最少、休業4日以上の死傷者数は3年連続で増加
厚生労働省は令和5年の労働災害発生状況を公表しています。これによると、令和5年1月から12月までの新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除いた労働災害による死亡者数は755人(前年比19人減)と過去最少となり、休業4日以上の死傷者数は135,371人(前年比3,016人増)と3年連続で増加しています。
◆休業4日以上の死傷者数の事故の型別では「転倒」が最多
休業4日以上の死傷者数の事故の型別では、件数の多い順に「転倒」が36,058人(前年比763人・2.2%増)、腰痛等の「動作の反動・無理な動作」が22,053人(同1,174人・5.6%増)、「墜落・転落」が20,758人(同138人・0.7%増)となっています。
◆「第14次労働災害防止計画」と高齢者等の災害
労働災害を減少させるために重点的に取り組む事項を定めた中期計画である「第14次労働災害防止計画」(令和5年度~令和9年度)では、「転倒による平均休業見込日数を令和9年までに40日以下とする」、「増加が見込まれる60歳代以上の死傷年千人率を令和9年までに男女ともその増加に歯止めをかける」などの項目が挙げられていますが、このアウトカム指標に関する状況としては、転倒災害の死傷年千人率は0.628(対前年比0.009ポイント・1.5%増)、転倒による平均休業見込日数は48.5日(同1.0日・2.1%増)、60歳代以上の死傷年千人率は4.022(同0.061ポイント・1.5%増)と増加の状況がみられます。
◆今後必須となる高齢者の労働災害防止
「令和5年 高年齢労働者の労働災害発生状況」によれば、雇用者全体に占める60歳以上の高齢者の割合は18.7%、労働災害による休業4日以上の死傷者数に占める60歳以上の高齢者の割合は29.3%となっています。高齢者の事故の型別では、「墜落・転落」、「転倒による骨折等」が目立っています。企業としては、今後の高齢化の状況を踏まえて、転倒災害などの高齢者による事故への備えは必須となってくるでしょう。
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